ドキュメンタリストの“後書き”

誰でも挑戦できる環境!“人”に寄り添う番組づくり

報道局報道部岩浦芳典

ドキュメンタリー番組を制作したキッカケを教えてください。

ふだんは朝の報道情報番組「バリはやッ!ZIP!」(毎週月~金 午前5:20~午前7:00)で、お笑い芸人こがけんさんが高校生の悩み相談にのる「こがけん、あのね!」や、毎週月曜日に放送している特集「町内放送」を担当しています。これまでスポーツやバラエティのディレクターとして番組を制作してきたため、報道ドキュメンタリーの制作は初めての挑戦でした。

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「難聴への理解を促すアニメ『なんちょうなんなん』の取材を検討してもらえないか?」4年前、報道取材とは全く別の取材でお世話になった方からご連絡をいただいたのが始まりです。「コロナ禍で訪れたマスク生活により、口元を見てコミュニケーションをとる難聴の人たちは苦しめられている。そんな人たちの存在を知ってもらうために力を貸してほしい」というお話を聞き、地元福岡で取り上げるべきニュースだと感じ、取材をスタートさせました。その取材をまとめたものが、2021年に放送した目撃者f「なんちょうなんなん~コロナ禍…難聴の子どもたちに“優しさ”を~」です。

「難聴」をテーマにした作品を多く制作していますが、以前から勉強をされていたのでしょうか。

元々、友人や知り合いに難聴の方がいたわけでもなく、取材をスタートしてから難聴について学びました。番組内にもありますが、私も「補聴器をつけていたら聞こえる」と誤解していた側です。それから本を読んだり、映画を見たり…。取材を重ねることで、難聴について新たに学ぶことばかりでした。その中で学んだ気付きや発見は、きっと視聴者の感覚と近いものだと思い、番組の制作でも大事にした部分です。

2023年4月放送の目撃者f「リンゴ飴のこえ」は大きな反響があり、NNNドキュメントとして全国放送、また2023年民放連盟賞も受賞しました。制作でうれしかったことなどありますか?

アニメ「なんちょうなんなん」の誕生をキッカケに、福岡では難聴理解の輪が少しずつ広がっていきました。その一つが、季節のリンゴ飴専門店「あっぷりてぃ」の誕生です。難聴の方々が主体となって働くお店ですが、はじめは試験的に仮設店での臨時営業。そのあっぷりてぃが“常設店”として2022年に福岡市に誕生するということで、その挑戦を取材しました。目撃者f「リンゴ飴のこえ~難聴って、なんなん?~」(手話付)
特にうれしかったのは、話題になることで福岡の活動を全国に知ってもらえたことです。お世話になった取材先にもその反響は大きく、喜びの連絡をいただきました。日本各地からりんご飴を買いに来るお客さんもいらっしゃったとか…!

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また、個人的に印象に残っているのは、番組のナレーションを「鬼滅の刃」や「スパイファミリー」に出演している人気声優の早見沙織さんに担当していただいたことです。この取材が決まった4年前、勉強のために最初に見たのが映画「聲の形」でした。難聴のヒロインを早見さんが担当されていたので、「全国放送をするときはナレーションを早見さんにお願いしたい!」と勝手に思っていました。ダメ元でオファーしたところ、全国ツアー直前の忙しい時期にも関わらず、スケジュールを調整してくださり実現。収録後にマネージャーさんから聞いた話ですが、「難聴の方々のお役に立てるならば…」と過密スケジュールながら早見さんの思いもあり、実現したものだったと教えていただきました。

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そんな中、海外出張もあったと伺っています。

難聴の選手たちがプレーするデフ(=聴覚に障がいのある)サッカーのワールドカップ取材でマレーシアに行かせてもらいました。デフサッカー日本代表のキャプテンは福岡出身の選手。実は、2021年放送の目撃者fで取材させてもらったのが始まりです。その出会いがキッカケで、彼がキャプテンとして臨んだ初めての国際大会を密着取材させてもらいました。目撃者f「音のないピッチで夢を描く」(字幕付)

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当初は、「予選リーグ突破が大きな壁」と伺っていたため予選リーグを取材し帰国しました。日本代表は4チーム中3位で予選を突破。しかしその後、優勝経験のあるチームに次々と勝利し、決勝まで上り詰めました。準決勝のエジプト戦をYouTube配信で見守り、日本が勝利した瞬間に、急いで航空券と宿泊先を手配し、翌々日に出国。決勝戦の取材を終えた後は、結果をニュースで放送するために、夜中1時の便で福岡に戻り、そのまま「バリはやッ!ZIP!」のニュース制作…と、激動の取材でした。1週間に2度も海外出張することは初めてで、弾丸の海外出張を許可してくれた上司に感謝したいと思います!
来年(2025年)は、難聴の選手達がプレーする「デフリンピック」が東京で開催されますので、引き続き、彼らの挑戦を追う予定です。

取材をする上で大切にしていることを教えてください。

偉そうなことは言えませんが、テレビは誰かの力になれる存在だと信じています。私がテレビ局を志した理由は、2010年に出身地である宮崎で起きた口蹄疫がキッカケです。当時、全国的なニュースになりましたが時間が経つにつれて、ニュースとして伝えるメディアはどんどん減ってきました。そんな中、宮崎に暮らす人々の現状や思いを真摯に伝え続けていたのは、地元のテレビ局でした。
「福岡の放送局として、福岡に暮らす人々に寄り添い、真摯に番組制作を行う。」このモットーを大切に、これからも番組制作に取り組みたいと思います。それはドキュメンタリー番組だけではなく、毎朝放送している報道情報番組「バリはやッ!ZIP!」でも思いは一緒です。
テレビを見て、時にはクスッと笑ってもらい、時には一緒に考えてもらいたい―。楽しく、泥臭く、仲間と共にがんばります!

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◆岩浦芳典のプロフィール

2019年中途入社。報道局報道部に配属され4年。朝の報道情報番組「バリはやッ!ZIP!」を担当しながらドキュメンタリー番組にも挑戦。民放連盟賞テレビエンターテインメント優秀賞(2018)、青少年向け番組優秀賞(2023)、LINEジャーナリズム賞(2023)、貧困ジャーナリズム賞(2024)を受賞。チャームポイントは抜けない宮崎弁。