
- 技術局制作技術部
- S.T.(2019年入社)
その番組に必要な「音声」とは? 1度きりの本番に、ベストを尽くす面白さ。
東京都出身。九州大学芸術工学部で立体音響を学んだ後、福岡放送に入社。制作技術部のマスター担当を経て、音声担当に。「めんたいワイド」、「プロ野球中継」、「24時間テレビ」など、多くの番組の音声を担当。
エンタメを作る楽しさに目覚めて
テレビは小さい頃からよく見ていました。
特に音楽番組が好きでしたね。
紅白歌合戦やレコード大賞は毎年欠かさず見ていました。
高校生の時に初めてバンドを組み、大学でもバンド活動のサークルに入りました。
そのサークルは演奏だけじゃなく、大学祭の前夜祭で2時間くらいのショーを運営していたんです。僕はドラムと照明を担当していました。
プロから見れば簡単なショーでしたけど、その時に気づいたんですよね、エンタメを作っていく楽しさに。
大学での専攻は、立体音響。
卒業生の多くは音響関連の会社に就職していたので、自分もその道に進むんだろうなと思っていたんですが、大学祭でエンタメを作る楽しさを知ってからは、テレビ局が第一志望に浮かぶようになりました。
ただ、自分はあんまり目立つのが好きじゃないし、作り手になる自信はなくて。
でも、FBSのインターンを受けてみたら、「センスだけが必要なんじゃない。まじめにコツコツが求められる仕事もあるんだ」と気づいて、受験を決意したんです。
その先の「やりたいこと」のために
入社後は制作技術部に配属され、最初の2年間は、マスターの部署を経験しました。
マスターの役割は、番組の品質をチェックし、最終的な放送プログラムを作ること。
ギャップはすごくありましたね。
テレビ局って、エンタメを作るイメージで入社したんですが、マスターはすごくまじめに作業することが求められる部署。
安定した放送を追求する部署ですから、緊張感もあります。
数秒、映像や音声が出ないだけで、放送事故になることもある。責任は重大です。
常日頃からさまざまなアクシデントに対応する訓練もしていますし、番組やCMがちゃんと放送されているかを監視する業務もあるんです。
24時間体制で全員が交替で行うので、夜中に1人でマスタールームでテレビを監視する業務もあり、とても緊張しました。
エンタメのイメージとは真逆の仕事ですよね。
ただ、その2年間で得たものは大きく、貴重な経験でした。
放送技術や、映像の信号、ネットワークや電波についてなど、テレビ番組を放送するために必要な知識を蓄えることができましたから。
自分はもともと、音声の仕事がしたくて入社したんですが、上司からは、「どのようにして、この番組やCMができているのか。どういう人が関わってテレビが視聴者に届いているのかを知ってから、現場に行った方がいいよ」と言われていました。
その先の「やりたいこと」のために、必要な経験だと思えたからこそ、一生懸命職務に取り組むことが出来ました。

野球の「音」が聞こえる理由
3年目からは、現在の仕事である「音声」を担当しています。
音声の仕事は、その番組に必要な音声と機材を考えること(音声プランニング)から始まります。
野球中継であれば、選手が打った「カキーン」という音をとるためには、どのマイクをどこに設置すればいいのか。ウグイス嬢の声はどうするか。実況席にはマイクが何本いるのか?といった感じ。
ちなみにプレイの音声をとるためだけで、10本ちょっとのマイクが必要になります。
加えて、その日の演出によっても機材は違ってきます。
「応援席のファンを近くからカメラで撮りたい」ということだったら、その音をとるためのマイクを準備したり。
最近はホームランを打った後、ベンチ前でパフォーマンスをする選手もいますよね。
「熱男ー!」というあの声がテレビから聞こえるのも、そのためのマイクが用意されているからなんです。
球場入りするのはいつも、試合が始まる5~6時間前。
すべての機材を準備し、試合が始まったら、さまざまな音をつないでいく「ミックス」という仕事を担当します。
それぞれの音を、どれくらい味付けするのかが、難しいんですよね。
例えば打者が登場する時は、観客席がわいている音を少し足し、逆にヤジは下げて、見ている人の邪魔にならないようにしてあげるとか。
必要な時に、必要な音を選択して、使い分ける。それがミックスの役割なんです。
臨機応変であれ
一方、「めんたいワイド」には、別の難しさがあります。
災害や大きな事件が起きれば、内容がガラッと変わります。
急きょ、中継班が現場に出ることになれば、急いでその準備をすることもあります。
音声スタッフのなかには、PAのミックスを普段担当している方もいるのですが、「何が起きるかわからないところが、ものすごく違うね」と言っています。
初めて「24時間テレビ」を担当した時も印象に残っていますね。
音声になってまだ2年目だったんですが、メインステージのmixを任せて頂きました。
24時間テレビの難しさは、多くの出演者のマイクをどう管理するかという点にあります。
本番中に出演者が別のステージに移動することも多いです。
また本番では、事前に予定していても、誰が何をしゃべるのかわかりません。
タレントさんが急に大きな声を出すなど、予期しないことも起こるし、音がひずんだり、謎のノイズがのる、といったトラブルもあります。
「何だこれ?」と気づいたら、その場で原因を調べて、すぐに対応しなければなりません。
無事に本番が終わった時は、心からほっとしましたね(笑)。と同時に、どんな状況にも対応できる幅広い知識の必要性を痛感しました。

誰かとの比較ではなく、自分との戦い
音声に限らず、テレビに関わる仕事の面白さの一つは、本番は1度きりしかない、ということだと思います。
その中でいかにうまくできるか。誰かとの比較ではなく、自分との戦いになる点が面白いと思っています。
音声にとって大事なのは、見ている人に違和感を持たれないこと。
自然であること。気持ちよく、テレビを見られること。
音声は目立たないので、テレビを見ている人には伝わっていないかもしれませんが、絶対にないと困る仕事。
それでいて、正解はないんです。
いつも、「本当にこれでよかったのか?」と自問自答しながら、深い仕事だなぁと感じています。
うまくいったのかどうか、自分ではわからないので、周りの人に聞いてみるしかない。
だから、「今日は球場が盛り上がっているのがすごく伝わったよ」といった声をいただけた時は、ほっとするし、すごくうれしい気持ちになります。
これからは、後輩を育てていくことも僕の課題だと思っています。
自分の知識や経験をたくさん教えてあげることで、後輩の成長を後押しし、一緒に、良い音を追求していける環境を作っていきたいと思っています。
メッセージ
僕は現在、FBSが制作している多くの番組の音声を任されています。
FBSはそういうチャンスをくれる会社。
しかも任せるだけじゃなく、先輩方もしっかりフォローしてくれます。
また、制作技術部は、非常に多くのことを経験することができます。
カメラ、スイッチャー、VE、音声システムのオペレートだけでなく、中継のTD、機器の保守運用や、巨大なシステムの検討など、さまざまな業務があり、どれも違った能力を要求されるので、非常に奥深いと思っています。
社内には他にもテレビの電波を管理する部署やIT系の部署などもあり、エンタメのかたわらで、止まってはいけない放送やネットワークを守るために働いている社員がたくさんいます。
いろんな仕事があるので、いろんな能力を活かせるし、みんなが輝ける器がある会社だと思う。
根っからのテレビ好きじゃなくても、何かやりたいことを見つけて楽しく仕事ができると思うし、いろいろなスキルも身につくので、ぜひチャレンジしてほしいです。
このインタビューは2025年に
取材したものです。