
2020.05.25
これを観れば面白さ倍増! 『美食探偵 明智五郎』特別編第1弾
ドラマにしろ、映画にしろ、小説にしろ、漫画にしろ、すばらしい作品は、総じて脇役が実に立体的で色鮮やか、濃密に描かれているもの。その存在感は、ときに主役をも凌駕してしまうこともあります。日曜ドラマ『美食探偵 明智五郎』もまた、明智五郎(中村倫也)の脇を固めるキャラクターたちの存在感が際立ちます。
これまで新型コロナウイルスの影響下でも放送を続けてきた本作ですが、本編の放送は前回の第6話をもって延期となり、以降3回は特別編を放送することがオープニングで明智本人の口から語られました。明智と小林苺(小芝風花)がMCとして番組を進行するという、ドラマとしては異例の展開に驚いた人も多かったのではないでしょうか。
番組冒頭は明智と苺のコミカルなやりとりもたっぷり。最近シリアスな展開が続いていただけに、息抜きにうれしい“ほっこりさ”でした。それにしても、毎回苺が作るお弁当が旨そうです。いつか「小林“一号”弁当」として、コンビニ大手さんあたりが商品化してくれることを切に願います。
地上波未公開映像を含む「裏メニュー」が登場
さて、特別編第1弾となる今回は、「〇秘裏メニュー」と題し、明智の幼少期のエピソードと第2話で登場したリンゴ農家の娘・古川茜(志田未来)の秘話が放送されました。
明智のエピソードでは、彼の美食の原点が祖父・明智五十六(いそろく)であったこと、そして祖父との思い出の味が小さな肉屋の揚げたてコロッケだったことなどが明らかになりました。大金持ちの御曹司でありながら好物が磯辺揚げというのはいささか違和感があったのですが、こういう背景があったとは。小さな頃から高級食材を食い漁ってきたいけすかない小倅ではなかったわけです(笑)。
また、劇中で五十六が小さな頃から本物の味を知っておくことの重要性を説いていましたが、それはまさにその通り。本来、味覚とは自分の健康に良いもの、悪いものを見分けるためのセンサーです。それが狂っているということは、自分の体に取り入れていいものと悪いものの見分けがつかないということ。「なんでも美味しく食べる」ことは一見幸せかもしれませんが、その実、自身の健康を守るセーフティネットがザルであると言わざるをえません。
…と、これは僕が自分の好き嫌いを正当化するために日頃使っている言い訳です(笑)。
第2話の裏メニューは、茜がなぜ恋人を手にかけることになったのか(実際に手を下したのはマリアですが)、その遠因となる悲しい過去が描かれました。茜の母は東京で恋に落ち、その恋に破れ、身ごもった我が子(のちの茜)と共に故郷へ戻り、心の傷が癒えぬまま亡くなっていました。茜が作るリンゴジャムは母の味であり、恋人の裏切りは、母への冒涜でもあったのです。殺意は亡き母への愛の表れ。まるで運命のように共に愛に傷つき、共に傷の付いたリンゴに自身を重ねる母娘の姿は、愛や人生が決して甘く、幸せなことばかりではないという現実を訴えかけてきます。
愛とは?を問いかける脚本に改めて脱帽。特別編は次回も見逃すべからず!
愛してるから、殺した―。
茜の言葉は何度聞いてもインパクトがあります。この第2話がことさらに切なく感じるのは、誰しもが恋愛で傷ついた経験があるからかもしれません。待ち続けた女と変わってしまった男の悲恋。結末は残酷でしたが、それは茜の愛が真実であり、愛する人を信じたからこその結末でした。信頼のないところに裏切りは生まれないからです。愛が深ければ傷も深く、純朴な女性を殺人に駆り立てたのは、愛深きゆえ。かといって、失って傷もつかない浅薄な愛にどれだけの価値があるでしょうか。
深夜の飯テロと共に、愛とはなんぞや!を問いかけてくるなんとも罪なこのドラマ。ああ、愛って一体なんでしょう。考えれば考えるほど迷宮入りです。有島武郎は、愛は惜しみなく奪うと言い、マリリン・モンローは愛は信頼と言い、瀬戸内寂聴は、憎しみは愛の裏返しと言いました。あれ、なんてこった。これら全部ドラマのなかで描かれているではありませんか。やるな『美食探偵』。
純愛、友愛、偏愛、盲愛。劇中ではさまざまな愛が交錯します。そんななか、ただ一人だけ、無償の愛を貫いた人物がいました。それは、茜の祖父(渡辺哲)。娘に続き、孫まで愛に狂わされてしまった、優しくてあまりに哀れなおじいちゃんを見事に演じた渡辺哲さんの名演も光りました。茜の心はある意味、マリアが救いました(間違った方向ですが)が、ひたすら孫の幸せのみを願った祖父の心に救いはあるのだろうかと思わずにはいられません。茜はマリアファミリーの一員として暗躍していますが、今後の改心や祖父との再会はあるのでしょうか。
次回はシェフの伊藤(武田真治)とれいぞう子(仲里依紗)の裏メニューだそうです。『美食探偵 明智五郎』特別編は、新型コロナウイルスの影響による苦肉の策だったかもしれません。が、予想を超えてこのドラマにさらなる深みを与えてくれるスパイスとなりそうな気がしています。
イラスト 鎌田かまを
これまで新型コロナウイルスの影響下でも放送を続けてきた本作ですが、本編の放送は前回の第6話をもって延期となり、以降3回は特別編を放送することがオープニングで明智本人の口から語られました。明智と小林苺(小芝風花)がMCとして番組を進行するという、ドラマとしては異例の展開に驚いた人も多かったのではないでしょうか。
番組冒頭は明智と苺のコミカルなやりとりもたっぷり。最近シリアスな展開が続いていただけに、息抜きにうれしい“ほっこりさ”でした。それにしても、毎回苺が作るお弁当が旨そうです。いつか「小林“一号”弁当」として、コンビニ大手さんあたりが商品化してくれることを切に願います。
地上波未公開映像を含む「裏メニュー」が登場
さて、特別編第1弾となる今回は、「〇秘裏メニュー」と題し、明智の幼少期のエピソードと第2話で登場したリンゴ農家の娘・古川茜(志田未来)の秘話が放送されました。
明智のエピソードでは、彼の美食の原点が祖父・明智五十六(いそろく)であったこと、そして祖父との思い出の味が小さな肉屋の揚げたてコロッケだったことなどが明らかになりました。大金持ちの御曹司でありながら好物が磯辺揚げというのはいささか違和感があったのですが、こういう背景があったとは。小さな頃から高級食材を食い漁ってきたいけすかない小倅ではなかったわけです(笑)。
また、劇中で五十六が小さな頃から本物の味を知っておくことの重要性を説いていましたが、それはまさにその通り。本来、味覚とは自分の健康に良いもの、悪いものを見分けるためのセンサーです。それが狂っているということは、自分の体に取り入れていいものと悪いものの見分けがつかないということ。「なんでも美味しく食べる」ことは一見幸せかもしれませんが、その実、自身の健康を守るセーフティネットがザルであると言わざるをえません。
…と、これは僕が自分の好き嫌いを正当化するために日頃使っている言い訳です(笑)。
第2話の裏メニューは、茜がなぜ恋人を手にかけることになったのか(実際に手を下したのはマリアですが)、その遠因となる悲しい過去が描かれました。茜の母は東京で恋に落ち、その恋に破れ、身ごもった我が子(のちの茜)と共に故郷へ戻り、心の傷が癒えぬまま亡くなっていました。茜が作るリンゴジャムは母の味であり、恋人の裏切りは、母への冒涜でもあったのです。殺意は亡き母への愛の表れ。まるで運命のように共に愛に傷つき、共に傷の付いたリンゴに自身を重ねる母娘の姿は、愛や人生が決して甘く、幸せなことばかりではないという現実を訴えかけてきます。
愛とは?を問いかける脚本に改めて脱帽。特別編は次回も見逃すべからず!
愛してるから、殺した―。
茜の言葉は何度聞いてもインパクトがあります。この第2話がことさらに切なく感じるのは、誰しもが恋愛で傷ついた経験があるからかもしれません。待ち続けた女と変わってしまった男の悲恋。結末は残酷でしたが、それは茜の愛が真実であり、愛する人を信じたからこその結末でした。信頼のないところに裏切りは生まれないからです。愛が深ければ傷も深く、純朴な女性を殺人に駆り立てたのは、愛深きゆえ。かといって、失って傷もつかない浅薄な愛にどれだけの価値があるでしょうか。
深夜の飯テロと共に、愛とはなんぞや!を問いかけてくるなんとも罪なこのドラマ。ああ、愛って一体なんでしょう。考えれば考えるほど迷宮入りです。有島武郎は、愛は惜しみなく奪うと言い、マリリン・モンローは愛は信頼と言い、瀬戸内寂聴は、憎しみは愛の裏返しと言いました。あれ、なんてこった。これら全部ドラマのなかで描かれているではありませんか。やるな『美食探偵』。
純愛、友愛、偏愛、盲愛。劇中ではさまざまな愛が交錯します。そんななか、ただ一人だけ、無償の愛を貫いた人物がいました。それは、茜の祖父(渡辺哲)。娘に続き、孫まで愛に狂わされてしまった、優しくてあまりに哀れなおじいちゃんを見事に演じた渡辺哲さんの名演も光りました。茜の心はある意味、マリアが救いました(間違った方向ですが)が、ひたすら孫の幸せのみを願った祖父の心に救いはあるのだろうかと思わずにはいられません。茜はマリアファミリーの一員として暗躍していますが、今後の改心や祖父との再会はあるのでしょうか。
次回はシェフの伊藤(武田真治)とれいぞう子(仲里依紗)の裏メニューだそうです。『美食探偵 明智五郎』特別編は、新型コロナウイルスの影響による苦肉の策だったかもしれません。が、予想を超えてこのドラマにさらなる深みを与えてくれるスパイスとなりそうな気がしています。
