ドキュメンタリストの“後書き”

「消えないアラーム」に込めた、私たちのきもち

報道局報道部奥村三枝鬼丸ゆりか

「医療的ケア児」ってご存じですか。生きるため医療サポートが必要な子どものことで、全国に約2万人います。「手足が動かせない」、「24時間呼吸器が必要」など抱えるハンデは様々ですが、共通する課題は「支える側の負担」。FBSは、医療的ケア児の現状・課題を追い続けています。医療従事者など幅広い視聴者の反響を呼んだドキュメント「消えないアラーム」のディレクター2人が取材のきっかけ、作品に込めた思い、これからのモノづくりを語ります。

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鬼丸: 奥村さんって、きっちゃん(桝田葵巧(きった)くん)はずっと昔から取材しているじゃないですか。どういう気持ちで取材されていたのかなってずっと聞きたくて。

奥村: 私が娘を産んだとき低出生体重児で、NICUに2ヶ月ぐらい入って。子どもがNICUから出た1年間はすごく不安でね。で、産休明けのネタ探しで、訪問看護師さんが医療的ケア児の在宅生活をサポートするってSNSを見つけたの。自分と一緒で、話を聞いてもらうだけでもすごく助かるんじゃないかなと思ってアプローチした。8年前かな?

鬼丸: 「にこり」のことですよね、訪問看護ステーションの。

奥村: そう。代表の親友の子が「医療的ケア児」で、病院から帰る時に訪問看護師を探したけどいないと聞いて、「それなら私が」と立ち上げたのが「にこり」。でもそういう現状も知らないし、「医療的ケア児」って言葉も周知されていなかったので、放送で知ってもらえればいいなって。鬼ちゃんは?はる君(平尾悠輝(はるき)くん)の取材、どうやって始めたの?

鬼丸: たまたま取材デスクから「取材依頼の電話が入っているから誰か取れる?」って言われて。母親の早弥香さんからのお電話で、「息子がもうすぐ小学校入学だけど、自治体が医療的ケアの必要な子どもを受け入れたことがなくて動いてくれない。悠輝の言葉で小学校に行きたいことを多くの方に知ってもらえたら」って。お母さんの思いを何とかしたい、何か力になれることがあればと感じて、取材することになりました。

奥村: 「医療的ケア児」とひと言で言っても、その子その子によって違うよね。きっちゃんは「肢体不自由」、はる君は「歩ける医療的ケア児」。はる君はこれまで想定されていなかったケース…

鬼丸:「医療的ケア児支援法」が施行された時に早弥香さんからお電話をいただいたんですが、「法律で行政支援が努力義務から責務に変わっても、何も変わっていない」って。私、小学校って誰でもすんなり入学できるって固定観念があったんですけど、初めて「こんな壁がある」と知りました。

奥村: 毎日24時間の医療のサポートが必要だから、保護者負担も大きい。

鬼丸: 夜、はる君の人工呼吸器が外れたら、親は起きないといけない…毎日十分寝られない。

奥村: 親は子どもかわいいっていう気持ちは当然あるの。でも訪問看護がいる時、きっちゃんママが「訪問看護がいる時だけ普通の家族っぽい時間がもてる」ってワーッて泣き出して。普段は見えない思いがたくさんある。「医療的ケア児支援法」ができても、蓋を開けてみたら十分サポートがない現状。でもサポートしないとお母さんたちが潰れちゃう。医療的ケア児の家族の小さな声を、有志がカバーしているのが続いているなぁと今でも思うなぁ。

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鬼丸: 奥村さんが特に伝えたかったインタビューは最後のほう…

奥村: そうね。きっちゃんのお母さんに、大きくなってからの課題を何気に聞いた時「自分たちがいなくなった先を思うと、きっちゃんを先に先に看取りたい」って聞いてしまったのね。あんなかわいがっているのに、そんなこと聞きたかったわけじゃないのに…でもご両親の本当の本音だから。私たちって家族でもないし、友達でもないけど、インタビューで友達にも家族にも言えないことを聞いてしまうことがある。多くの人にその本当の声を知ってほしい、と思いますね。私は本音を一緒に背負って課題解決したいし、現状サポートがないなら浮き彫りにしたいなって。

鬼丸: なるほど…でも、私、全然撮れないんです。お母さんは話してくれるけど、主人公のはる君がなかなか…インタビュー撮る前に遊んで撮ったり、自分なりに色々工夫はするんですけど…

奥村: 照れもあるんじゃない?

鬼丸: いやいやいや、やっぱりカメラを向けると…カメラ回ってないときはいろいろ話してくれるんですけどカメラを向けるとどうしても…うーん。

奥村: 圧、圧が強いって(笑)でも今回の番組は、はる君がいたからこそ「今の社会」との接点や課題が分かった。支援法ができてもサポートを受けられない子がいるのは、鬼ちゃんの取材で分かったことだから。

鬼丸: はる君は常に人工呼吸器が必要です。でもそれ以外はほかのお友達と変わらないのに、通常学級じゃなくてたった1人の特別支援学級になりそうだった。みんなと一緒に学校通いたいっていう願いがなぜ叶わないのって…取材を始めて4月の小学校入学まで半月ぐらいしかなくて、追い詰められていたのも正直あります。

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奥村: 鬼ちゃん、次はどんな作品を作ろうと思っているの?

鬼丸: 奥村さんと合作できましたが、まだ自分ひとりの取材で30分間のドキュメントを作ったことがありません。私、ふだん手掛けるニュース企画は医療系が多いんですね。最近ALSの方を取材しました。
まずはニュース企画から番組の企画書になるところまで頑張らないといけないなと。それからはる君、小学2年になりましたけど、小学校卒業とか節目節目でずっと追いかけていきたいと思っています。

奥村: 「私たちが見てほしい」というより、「伝わるニュースを、伝わるように」作っていきたいねー。今回視聴者の方からいろんな意見をいただいたし、賞までいただいたりもした。見ていただく皆さんの声を反映した取材をね。いませっかく継続取材させていただいているので、そういう声を意識しながらこれからも取材をしていきたいと思っています。

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◆奥村三枝のプロフィール
奥村三枝

FBS福岡放送報道部北九州支局
2013年に配属されて以降、事件事故、市政などジャンルを問わず取材。中でも「小児専門訪問看護師」「医療的ケア児」「小児がんの少女と家族の9か月」など子どもたちが置かれている環境と課題などを深掘りしています。
「1人でも『見て良かった』と思ってもらえるニュースを…」現場から“小さな声”をお届けしたいと思っています。

◆鬼丸ゆりかのプロフィール
鬼丸ゆりか

FBS福岡放送報道部
社会班担当を経て、現在は主に福岡県政・市政の取材を担当。
医療的ケア児の取材を始めて3年目になります。
様々なジャンルを取材していますが、これからも何をどう伝えるのか試行錯誤しながら全身全霊で丁寧に深く掘り下げて伝えていきたいです。