番組向上への取り組み

番組審議会だより
第573回(2021年1月20日)

【はじめに】
2021年1月13日、首都圏1都3県に続いて福岡県を含む7府県に新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急事態宣言が発出された。
それに伴い会議出席者の移動にかかる感染リスクおよび3密(密閉・密集・密接)を避けるため、
2020年4・5月度と同様、委員・社側からの書面提出による審議とした。
各委員からの書面は会議開催予定前日の1月19日までに事務局に提出され、番組制作者が閲覧・回答。事務局が質疑の形式にまとめた。

審議対象番組
「池上彰の九州2020総決算!~徹底解説 コロナと災害にゆれた1年~」(報道部)
審議対象日
12月26日(土)
放送時間
9:30~11:25(115分)
*うち、9:30~10:30(60分)は福岡ローカル
【九州ブロックネット】
*NIB・KKT・KYT 10:30~11:25(55分)
*UMK   12:30~13:25(10:30~11:25自社収録放送)
*TOS   15:00~15:55(        〃        )

議事の概要

番組内容

未知なる感染症「新型コロナウイルス」の出現で世界は一変。医療崩壊の危機に緊急事態宣言が発出され、人々は新しい生活様式への転換を迫られました。東京オリンピック・パラリンピックほかイベントの中止、旅行など移動制限によるインバウンド激減をはじめ、経済的損失は日々の生活基盤を脅かしています。一方、7年8か月ぶりに国のトップが交代、九州では「令和2年7月豪雨」に見舞われ、甚大な被害がありました。歴史に残る、激動の2020年をニュース特別解説員・池上彰氏が徹底解説します。

【スタジオ】池上彰 若林麻衣子アナウンサー (ゲスト)宮崎美子 原口あきまさ
小川洋(福岡県知事)・青柳俊彦(JR九州社長) ほか

委員のご意見

  • 池上彰さんが出演する年末の番組は3年連続で、九州の事情について知識が増えて慣れてきたのか、番組制作をいろいろと工夫されてきた成果なのか、「年々進化している」という印象を素直に持った。
  • 前回、前々回と大きく変わったのは、コメンテーターである。熊本出身の宮崎美子さんは、この番組にぴったりの人だと思った。熊本だけでなく九州のことについて土地勘があり、球磨川の豪雨被害ではふるさとを思う気持ちが伝わってきた。
  • テーマは、九州の明るい展望につながるようなものがあっても良かったのでは。ワーケーションをとりあげた地方回帰の動きはそういうテーマだったが、他にもDX(デジタルトランスフォーメーション)や、九州各地の都市開発等も明るい話題になったのではないか。
  • ショッピング袋を持った人を何度も映したり、人通りが多い風景ばかりを「イメージ的」に映したりするのはどうかと思った。放送当時は緊急事態宣言が出ているわけではないので、イメージ映像の出し方に配慮するべきではないか。きちんとした店は換気や消毒、間隔を空けるなど努力をしている。感染予防しながら多少経済を動かしていくべきだ。
  • コロナの経済への影響では、九州各県の財政調整基金の残高を示し、これを使うことによって何とか凌いでいることが分かった。時間的制約があったかもしれないが、国の財政がどうなっていくのかなども知りたかった。
  • 豊富なデータを随所で用いながら、フリップボードなどで説明するのは池上さんの番組のいつものスタイルだが、今回はとりわけ分りやすかった。説明に使うデータの取捨選択が的確で、指摘したいポイントにしっかり焦点が合っていた。池上さんのコメントに合わせるフリップの使い方が非常に上手だった。
  • 番組の訴求ポイントである池上さんの「ヨミトク!」は、「出版とデジタルの融合」「避難所の進化」「国が借金すべき」「避難情報が変わる」「現代ルネッサンス」で、どれも前向きなメッセージになっている点が際立っていた。コロナや自然災害を報じる中で、ともすればネガティブな取り上げ方になりがちな印象があるが、池上さんの「ヨミトク」は、そういったマイナスイメージをなぞらず、視聴者に力を与えてくれるコメントが多く、今回は特に池上さんの持ち味が出ていた。
  • 経済に与える影響として、九州・沖縄の宿泊者が激減したこと、新型コロナ関連倒産が70件以上に及んでいること、GoToトラベルを2000万人以上が利用したこと、プレミアム食事券を購入するための行列ができたこと、各県の財政調整基金が半減したことが紹介されたが、もう一歩突っ込んで、GoToトラベルと感染拡大との因果関係の有無、海外の自治体が実施した経済対策の具体例などについても触れてほしかった。
  • 豪雨災害では球磨村の中継で、甚大な被害が生じていることを改めて実感できた。池上さんの解説は、避難情報の伝え方が変わることについてだったが、被害の原因、新型コロナ禍における緊急対策の現状と課題、長期的課題などについても触れてほしかった。
  • 球磨村からの中継では、豪雨被災から半年経っても家屋の解体が進まず、復興していない状況を目の当たりにした。コロナウイルス感染症の影響による重機不足の問題や、見通せない治水の行方が復興の妨げになっていることが理解できた。
  • 今回は撮影にも種々の制限があったことと推察されるが、前回のように九州じゅうの様々な地点から中継でつないでゆく企画がなかったのは、少し残念だった。テーマはどうしてもコロナ禍にならざるを得なかったが、「九州総決算」と銘打っている以上は、鹿児島や長崎など、もう少し発信拠点を分散してもよかったのではないか。球磨村からの中継以外、ほとんど福岡の話題が中心になっていたような印象だった。
  • コロナ特措法をめぐる法整備の拡充が話題になった際、議論をリードする池上さんが、パチンコ屋や飲食店の営業規制に向けて、首長の権限を強化するべく小川知事に対して政策誘導、あるいは視聴者を前に世論誘導しているとしか思えず、驚愕を禁じえなかった。
  • 肥薩線の復旧について、「いろいろ障害はあるだろうが、まずは線路の復旧を前提に考えたい」というJR九州社長の思いが明快に伝わってきた。その際の「線路で外部とつながっていることが精神的にどれだけ重要か」を説く宮崎美子さんのコメントがとても心に残った。
  • コロナ対策に関する小川知事との討論で、池上さんは「自粛を求めるのか、旅行を推奨するのか、どちらなのか」と迫ったり、「(福岡に比べて)熊本は(自粛の目安となる)数値目標を出していてわかりやすい」と指摘したりするなど、問題点をきちんと突いていた。
  • 惜しまれるのは、福岡をはじめ九州各地の病床稼働率について、グラフを使って丁寧に示していたのに、そのデータを基に、小川知事に切り込まなかった点だ。小川知事は「医療体制は逼迫していない」と繰り返していたが、稼働率の上昇は明らかであり、この事実をどう受け止めているのか、と質問すべきだったのではないか。知事の甘い認識をただす機会を逃したのは残念だった。
  • 7月豪雨についての球磨村中継では被災者のインタビューがほとんどなく、まもなく豪雨半年を迎える中でどんなことを切望しているのか、といった生の声がなかったのは物足りなかった。昨年放送した「目撃者f 暴れ川と生きていく」で、筑後川流域の取材をされていたのだから、福岡県内の被災者の声を拾うという選択肢もあったのではないか。
  • 「マークイズ」の殺人事件は、少年院を仮退院したばかりの少年の凶行で、何の落ち度もない女性が命を奪われた。こうした重大事件を「話題もの」の中に入れて紹介したのは、事件が軽く扱われているようで、かなり違和感があった。もし、被害者の遺族がこの番組を見たらどう思うのか、配慮に欠けていた。
  • 番組冒頭で宮崎さんのカレンダーを紹介し、中でも水着の写真をアップで映していたのは、いかがなものか。若い頃、水着になる写真で一世を風靡した宮崎さんが再び水着姿を披露したのは、それなりに注目を集めたのかもしれないが、コロナや災害に見舞われた2020年を振り返る特別番組の冒頭で取り上げたのは、個人的にはあまり好ましくなかった。
  • 「新型コロナの影響」も「豪雨による熊本の被災からの復旧」も、2020年の出来事が過去のものではなく、その影響は2021年度も続いていく中で、「振り返り」にとどまらず「これから」にも焦点を当てた内容であり、よかった。
  • 池上さんによる「ヨミトク!」は本番組の重要な要素だが、「コロナ禍の中での災害避難により、避難所が人権を考えるようになり進化した」といったものなど、視点の置き方が興味深く、また、解説もわかり易く、年末に1年の振り返り特集を行う番組が数ある中で、本番組の特色、良さが出ていた。一方、「宮崎県が餃子の消費量が全国1位の理由」は、池上さんがわざわざ解説する内容なのか?と疑問だった。