
2020.06.29
これは終わり?それともはじまり? 最後の晩餐は、絶望か希望か。『美食探偵 明智五郎』ファイナル!
とうとう、とうとう終わってしまいました。
『美食探偵 明智五郎』。最終話は30分延長のスペシャル版。もはや待ったなしの状況だった明智五郎(中村倫也)とマリアファミリーの対決が一応の決着をみました(一応と書いたわけはのちほど)。途中、新型コロナの影響で収録が中断した時期もありましたが、終わってみれば夢中で見続けた全9話。充実でした!
最終話のあらすじは以下のようなもの。
前回、奈落の底に消えた明智とマリア(小池栄子)だったが、2人とも生きていた。その事件から半年後、何気ない平穏が続いたのも束の間、雌伏の時を経て再びマリアが牙をむく。明智の母・寿々栄(財前直美)や首相、大臣も参加する「茶菓子選定会」において、マリアファミリーは茶菓子に毒を混入。明智や寿々栄、首相は間一髪命拾いするが、外務大臣は死亡。一国の大臣が毒殺されるという、国を揺るがす大事件へと発展する。騒動のなかで小林苺(小芝風花)はマリアファミリーに拉致され、明智の元にはマリアから招待状が届く。威信にかけてマリアファミリーを追う警察。組織のしがらみに翻弄されながらも自らの正義を貫こうとする上遠野透(北村有起哉)と高橋(佐藤寛太)。親友・苺を救おうと奮闘する桃子(富田望生)。そして明智が選ぶのは、マリアか苺か。それぞれの「最後の晩餐」が始まる…。
快楽殺人集団マリアファミリーがついにテロリストになりました。劇中でも触れられていましたが、殺したのが首相であろうと大臣であろうとマリアにはとって大差なし。そこに政治的意図も義憤もありません(あったとしても建前)。なのでテロリストとは少し違うのですが、それが彼女の恐ろしさであり、美しさだとシェフは言います。純粋な悪、きわめて純度の高い殺意。殺人もゲーム感覚だから自分がゲームオーバー(死ぬ)になることも想定済です。ただし、明智と一緒であれば。
ついに顕在化したマリアファミリーのほころび
マリアの狂気も最高潮になり、明智だけでなく国家をも敵に回して物語はいよいよ嵐の展開となっていきます。そんななか、最終回にしてはじめて、これまで完璧に見えたマリアファミリーに綻びが生じました。今の自分に少しずつ違和感を覚えるシェフ(武田真治)。青森の祖父が他界し、さらに孤独感を深める林檎(志田未来)。シェフとれいぞう子(仲里依紗)のまさかのラブロマンスには驚きです。「いつの間に?」と思った視聴者も多かったのではないでしょうか。なんの前ぶれもありませんでしたが、たしかに一緒に死体をバラバラにするという究極の釣り橋効果に加え、自分の命を救われたとあれば、恋に落ちるのもやむなし。シェフはマリアラブなのでれいぞう子の気持ちを受け止めることはできなかったでしょうが、互いに通じ合うものはあったようです。
マリアファミリーの強みは、失うものはないことでした。けれどシェフは料理人としてのプライドを捨てきれず、林檎はいつの間にかマリアファミリーでいることに依存、れいぞう子はシェフを愛してしまった。絶望の下に集った者たちが、その結果、希望すなわち守りたいものを見出してしまい、守りたいものができたことで失う怖さを思い出してしまったわけです。綻びとは、人間らしい弱さでした。
明智がマリアに惹かれていた理由も腑に落ちました。明智は自分でいようとすること、自分らしくいたいと願うことに絶望していました。ああ見えて自己肯定感が希薄だったんですね。そういう人ほど周りからは自信家に見えることはよくあります。母親との確執も、家というものに縛られ、親子として過ごす時間がなかったことへの反発でした。
明智、マリア、苺。三角関係もついに終焉。
明智、苺、マリア。物語の主軸となっていた三角関係もついに決着。結論から言うと、明智が選んだのは…
苺(ちくわの磯辺揚げ)でした。
では明智は苺を愛しているのかというと、まだちょっと微妙。ありのままの自分を受け止めてくれた苺がかけがえのない存在であることは間違いないものの、それが恋なのか愛なのかはハッキリしないまま。ただ、この距離が2人の距離な気もします。急にラブラブでも、という気がしますね。
一方、明智が自分を選ぶと疑いもしなかったマリアは絶望の表情を見せます。「希望っていう言葉が世の中で一番嫌い。あいつらは裏切り者だから」。そう言ったマリアもまた、明智という希望にすがっていたのです。明智も、シェフも林檎も、れいぞう子も。みな希望の花を咲かせきれない徒花。
ただ一人だけ、苺だけは陽の当たる方を常に向いていました。だからこそシェフに料理人としての矜持をぶつけた言葉には力があった。食べる人の顔を思い浮かべて作る心のこもった料理。物語を通してのテーマだった「最後の晩餐」の答えはここにある気がします。
小芝さん渾身の演技も光りました。最初で最後、苺が完全にマリアを凌駕。苺のスキをついて注射を打った瞬間、あれはマリアの敗北宣言に等しい行為です。マリアにとって苺は眩しすぎてつい覆い隠したくなってしまったように見えました。
物語は完結。そしてエピローグへ
明智とマリアの終焉は、時を第1話に戻したように因縁の岸壁が舞台でした。明智の心が手に入らないと悟ったマリアはまたしても海に身を投げます。生死を知る術はありません。明智は探偵をやめ、苺とともにお弁当屋をやる決意をし、何気ない日常が戻る。そんなラストでした。
気になったのは、海に沈みゆくマリアの目がカッと見開いたシーン。あの目は死にゆく者の目ではありません。何度も死地から生還した彼女のこと。ひょっとしたら…という疑念は拭えません。冒頭「一応の決着」と言ったのはこれが原因です。また、マグダラのマリアには後継者が誕生していました。そう、苺の友人であったココです。最後の最後まですっかり忘れていました。堕天使の羽はますます黒く大きくなっていたようです。やはり、今回の決着は“一応”。続編もしくはスピンオフもありえるかも、と密かに期待しています。
長くなってしまいましたが、『美食探偵 明智五郎』全9話。お腹いっぱい、胸いっぱいになるまで楽しませていただきました。さて、最後に。
もし明日殺されてしまうとしたら、あなたは最後に何を食べますか?
イラスト 鎌田かまを
『美食探偵 明智五郎』。最終話は30分延長のスペシャル版。もはや待ったなしの状況だった明智五郎(中村倫也)とマリアファミリーの対決が一応の決着をみました(一応と書いたわけはのちほど)。途中、新型コロナの影響で収録が中断した時期もありましたが、終わってみれば夢中で見続けた全9話。充実でした!
最終話のあらすじは以下のようなもの。
前回、奈落の底に消えた明智とマリア(小池栄子)だったが、2人とも生きていた。その事件から半年後、何気ない平穏が続いたのも束の間、雌伏の時を経て再びマリアが牙をむく。明智の母・寿々栄(財前直美)や首相、大臣も参加する「茶菓子選定会」において、マリアファミリーは茶菓子に毒を混入。明智や寿々栄、首相は間一髪命拾いするが、外務大臣は死亡。一国の大臣が毒殺されるという、国を揺るがす大事件へと発展する。騒動のなかで小林苺(小芝風花)はマリアファミリーに拉致され、明智の元にはマリアから招待状が届く。威信にかけてマリアファミリーを追う警察。組織のしがらみに翻弄されながらも自らの正義を貫こうとする上遠野透(北村有起哉)と高橋(佐藤寛太)。親友・苺を救おうと奮闘する桃子(富田望生)。そして明智が選ぶのは、マリアか苺か。それぞれの「最後の晩餐」が始まる…。
快楽殺人集団マリアファミリーがついにテロリストになりました。劇中でも触れられていましたが、殺したのが首相であろうと大臣であろうとマリアにはとって大差なし。そこに政治的意図も義憤もありません(あったとしても建前)。なのでテロリストとは少し違うのですが、それが彼女の恐ろしさであり、美しさだとシェフは言います。純粋な悪、きわめて純度の高い殺意。殺人もゲーム感覚だから自分がゲームオーバー(死ぬ)になることも想定済です。ただし、明智と一緒であれば。
ついに顕在化したマリアファミリーのほころび
マリアの狂気も最高潮になり、明智だけでなく国家をも敵に回して物語はいよいよ嵐の展開となっていきます。そんななか、最終回にしてはじめて、これまで完璧に見えたマリアファミリーに綻びが生じました。今の自分に少しずつ違和感を覚えるシェフ(武田真治)。青森の祖父が他界し、さらに孤独感を深める林檎(志田未来)。シェフとれいぞう子(仲里依紗)のまさかのラブロマンスには驚きです。「いつの間に?」と思った視聴者も多かったのではないでしょうか。なんの前ぶれもありませんでしたが、たしかに一緒に死体をバラバラにするという究極の釣り橋効果に加え、自分の命を救われたとあれば、恋に落ちるのもやむなし。シェフはマリアラブなのでれいぞう子の気持ちを受け止めることはできなかったでしょうが、互いに通じ合うものはあったようです。
マリアファミリーの強みは、失うものはないことでした。けれどシェフは料理人としてのプライドを捨てきれず、林檎はいつの間にかマリアファミリーでいることに依存、れいぞう子はシェフを愛してしまった。絶望の下に集った者たちが、その結果、希望すなわち守りたいものを見出してしまい、守りたいものができたことで失う怖さを思い出してしまったわけです。綻びとは、人間らしい弱さでした。
明智がマリアに惹かれていた理由も腑に落ちました。明智は自分でいようとすること、自分らしくいたいと願うことに絶望していました。ああ見えて自己肯定感が希薄だったんですね。そういう人ほど周りからは自信家に見えることはよくあります。母親との確執も、家というものに縛られ、親子として過ごす時間がなかったことへの反発でした。
明智、マリア、苺。三角関係もついに終焉。
明智、苺、マリア。物語の主軸となっていた三角関係もついに決着。結論から言うと、明智が選んだのは…
苺(ちくわの磯辺揚げ)でした。
では明智は苺を愛しているのかというと、まだちょっと微妙。ありのままの自分を受け止めてくれた苺がかけがえのない存在であることは間違いないものの、それが恋なのか愛なのかはハッキリしないまま。ただ、この距離が2人の距離な気もします。急にラブラブでも、という気がしますね。
一方、明智が自分を選ぶと疑いもしなかったマリアは絶望の表情を見せます。「希望っていう言葉が世の中で一番嫌い。あいつらは裏切り者だから」。そう言ったマリアもまた、明智という希望にすがっていたのです。明智も、シェフも林檎も、れいぞう子も。みな希望の花を咲かせきれない徒花。
ただ一人だけ、苺だけは陽の当たる方を常に向いていました。だからこそシェフに料理人としての矜持をぶつけた言葉には力があった。食べる人の顔を思い浮かべて作る心のこもった料理。物語を通してのテーマだった「最後の晩餐」の答えはここにある気がします。
小芝さん渾身の演技も光りました。最初で最後、苺が完全にマリアを凌駕。苺のスキをついて注射を打った瞬間、あれはマリアの敗北宣言に等しい行為です。マリアにとって苺は眩しすぎてつい覆い隠したくなってしまったように見えました。
物語は完結。そしてエピローグへ
明智とマリアの終焉は、時を第1話に戻したように因縁の岸壁が舞台でした。明智の心が手に入らないと悟ったマリアはまたしても海に身を投げます。生死を知る術はありません。明智は探偵をやめ、苺とともにお弁当屋をやる決意をし、何気ない日常が戻る。そんなラストでした。
気になったのは、海に沈みゆくマリアの目がカッと見開いたシーン。あの目は死にゆく者の目ではありません。何度も死地から生還した彼女のこと。ひょっとしたら…という疑念は拭えません。冒頭「一応の決着」と言ったのはこれが原因です。また、マグダラのマリアには後継者が誕生していました。そう、苺の友人であったココです。最後の最後まですっかり忘れていました。堕天使の羽はますます黒く大きくなっていたようです。やはり、今回の決着は“一応”。続編もしくはスピンオフもありえるかも、と密かに期待しています。
長くなってしまいましたが、『美食探偵 明智五郎』全9話。お腹いっぱい、胸いっぱいになるまで楽しませていただきました。さて、最後に。
もし明日殺されてしまうとしたら、あなたは最後に何を食べますか?
